ペットロス コラム -愛する動物との別れ- #3

今回は、ヒトと動物の関係とペットに対する‘愛着’についてお話します。
飼い主さんとペットとの関係を‘ヒトと動物の絆(Human Animal Bond)’という言い方をしますが、特に心理的な結びつき、情緒的関係を‘愛着(Attachment)’といいます。愛着はもともとイギリスの児童精神科医のボウルビィが愛着理論として提唱したものです。乳児が主たる養育者(通常は母親)との間に構築する特別な情緒的結びつきを愛着とよび、子どもの健全な心身の発達に必要であるとしました。乳幼児の人見知りや後追いも愛着行動によるものです。「お母さん大好き!」、「お母さんといれば大丈夫!」という感じですね。


写真1 ショーベの洞窟壁画
この愛着を飼い主さんとペットとの情緒的関係にも用いています。そもそもヒトと動物の関係は太古の昔からあり、狩の対象としての動物、獲るものと獲られるものという関係が最も古い形です。写真1はフランスにある「ショーベ洞窟」の壁画です。32,000年前のものといわれています。もはや絶滅してしまった動物もいる様ですが、これらの動物たちが原始の人たちにとって身近だったからこそ、これだけ鮮やかに描かれていると言えます。言葉も持たない時代のヒトにとって、すでに動物が大切な存在であったということがこの絵から分かります。
狩りの対象だった動物の一部が、やがて家畜となり、ヒトは食料、日用品、労力、移動など様々な目的で動物たちを実用的に飼養するようになります。現在でも家畜は私たちの生活に欠かすことはできません。ただ近年は、その家畜たちの動物福祉(アニマルウェルフェア)も守っていこうという考え方が大きくなってきました。この動物福祉については、また別の機会にお話しします。

写真2 豊穣の神 バステト
さて、ヒトと動物の関係でもう一つ忘れてはならないのは、信仰の対象としての動物たちでしょう。写真2は古代エジプトの豊穣の神バステトです。ネコは神聖な動物とされ、ネコのミイラもたくさん発掘されました。動物たちは様々な宗教で、特にアミニズムにおいては、大切な信仰の対象でした。

写真3 ヴィクトリア女王と家族
これら3つのヒトと動物の関係は、どれも動物はヒトにとって実利的なものでしたが、もう一つ大切な関係があります。それが愛着です。12,000年前のイスラエルのアインマラッハの遺跡には、老女が仔犬に手をのばした格好で埋葬されていました。この女性にとって仔犬が大切な存在で、情緒的な関係がこの時代にすでにあったのではないかと考えられています。実用的な側面はなく、かわいがるためのペット(愛玩動物)は、長い間王侯貴族のものでした。庶民が生きていくのに必死な時代に、裕福な人でなければペットは飼えなかったのです。そのような一部の特権階級のものであったペットでしたが、20世紀初頭産業革命や植民地政策によって一部の中産階級の人々が莫大な富を手にするようになりました。貴族の称号は持たない彼らはそれでも王侯貴族の生活を模倣したのですが、その時にお手本になったのが、写真3です。これはヴィクトリア女王とその夫君であるアルバート公、そして幼い王女の一家だんらんの様子を描いたものです。よく見るとここには犬が4頭も描かれています。国の最高君主であるヴィクトリア女王一家のこの絵は、いわば国民の憧れの状況で、イヌ失くして理想の家庭は築けないということになりました。そこでイギリスでは裕福な中産階級の間で空前のペット(イヌ)ブームが沸き起こり、血統書による純血種の管理やドッグショーも行われるようになりました。この時代にペット飼育の原型ができたと言われています。
その後2度の世界大戦が起こり、科学技術の進展、産業構造の変化とともに、社会の形態が大きく変わっていきます。都市化、地域共同体の弱化、少子高齢化など現代社会が抱える問題が大きくなり、人間関係が希薄化していく中、その隙間を埋めるがごとくペットが家庭の中に入りこんできました。コンパニオンアニマル(Companion Animal)、伴侶動物と呼ばれるようになったペットは、家庭の中でヒトと共に生活をするようになり、両者の間には愛着がしっかり形成されるようになりました。皆さんも言いませんか、「この子はうちの家族です!」って。
次回は、私たちがどうしてこんなに動物に
魅力を感じるのか、動物と暮らすとどんなメリットがあるのかをお話します。
今回は少し長くなったので、絵本の紹介はまた次に!